逆ソクラテス(伊坂幸太郎)

現在、どの書店でも絶賛平積み売り出し中の伊坂幸太郎さんの「逆ソクラテス」を読了。
短編5作で構成されており、多少繋がりがあるところもあるが、それぞれ別の物語となっている。

どのような物語かという前に、まず特出すべきは表紙の絵のカッコ良さである。
西洋風の塔?のような建物を身体中に生やした走る要塞のような馬が描かれており、そこに7人の小学生たちが乗っているファンタジックな絵だ。

この表紙はブックデザイナーの名久井直子さんが手がけたもので、GA infoのインタビュー記事で「本は言葉を乗せる舟、装丁は舟を作る仕事です」と語っていたが、人に届けるという意味では最高の舟に仕上げられていると思う。現に私は本書をジャケ買いならぬ装丁買いした。

□名久井直子さんのインタビュー
https://www.toppan.co.jp/biz/gainfo/cf/35_nakui/p1.html

さて、本書の内容についてだが、このファンタジック表紙から、私は動く城のような馬に乗った子どもたちによる大冒険を想像したが、魔法も妖精も出てこないふつうの小学生を主人公にした物語だ。
また、ミステリー作家として有名な方だと思うが、殺人事件や怪奇事件が起こるということもない。

勝手にファンタジーを期待して読み始めた私だったが、爽快なストーリー展開と小気味よいフレーズが散りばめられていて、やはり売れっ子作家は何を書いても流石だなと思った。

しかし、読んでいて違和感を覚えるところもあった。過去作のファンだともしかしたら期待していたものと違ったということもあるかもしれない。(Amazonレビューを見たところ、2,243レビュー、星4.4とめちゃくちゃに評価が高く、全くそんなことはないかもしれない)

あとがきの伊坂さんへのインタビューを読んだとき、時折感じた違和感に合点がいった。
インタビューによると本作は小学生の話を書くという企画から始まったものらしい。普段と違って非現実的なことを縛り、あまり書いたことのない子どもをメインの登場人物としていて、またメッセージ性を持たせた作品作りも基本的にしないそう。

少し物語に派手さが欠けていたり、展開が多少強引だったり、メッセージの伝え方が露骨だったり、子どもに大人のセリフを話させている(リアルな子ども感がない)など個人的に気になっていたのだが、それは伊坂さんにとって本書は、チャレンジングな作品だったからなのだ。

「人のことを一面的にだけみても人柄や能力は分からない、決めつけてはいけない」という伊坂さんの本書に込め他メッセージが全体に共通して見られた。

たとえば、本書のタイトルにもなっている短編1作目「逆ソクラテス」は、生徒の出来・不出来を決めつけて子どもの可能性を規定してしまう教師を非難して、主人公たちがその先入観をひっくり返すための小学生なりの作戦を決行していく話である。

伊坂さん自身も、自分の得意分野、引き出しの多い分野から離れて、新たな可能性を模索した作品なのではないかと思う。ぜひ、あとがきのインタビューも忘れず読んでいただきたい。


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